ヒロインになれない!
でも、母と兄は微妙な表情をした

しばらくして兄が、髪をかき上げながら言った。
「……大学サッカーの1部リーグに所属してるような強豪大学のサッカー部に入ると、だいたいどれぐらいの費用がかかるか、知ってるか?」

「知らんよ。高校よりかかるん?」
……うちの学校は遠征もしないので、全然かからないほうではあると思うのだが。

「比較にならんよ。寮に入ったら、大学の学費の倍以上はかかるんちゃうか?」

え?

「今、和也くんに来ている話は、学費だけじゃなくサッカー部にかかる経費も全て免除……スポンサーが誰か、言わなくてもわかるやろ?」

……って、お父さん?
マジで?
なんで?
私を、東京に行かせるため?
そこまでする!?

驚く私に、母が慌てて取りなす。
「いいお話なんよ?サッカー部の中でも1軍候補に入れていただけるらしいし、Jリーガーもたくさん出てる大学だし、もしサッカーで挫折されても最低限一流企業に就職の推薦をいただけるって。」

そんな風に言われても、釈然としない。
大人の理屈で、それも自分に関係のないところで人生を勝手に決められてしまうなんて、和也先輩が知ったら?

私はぷるぷると頭を振った。
「和也先輩は自由にさせてあげて。それとは関係なく、私は、東京行くから。」
じんわりと涙が出てくる。

兄が慌てて、背中をさすってなだめてくれる。
「わかったわかった。そもそも強制力はないんやから、和也君次第なんや。由未も無理せんでええねんで?」

私は、こっくんとうなずいた。
でも私は、来年から東京に行くことになるのだろう。
家族がそれを望んでるなら、私には拒絶することはできないような気がした。

夏休みが終わる直前まで、私は実家で過ごした。

二学期に入ってから、あおいちゃんに編入の件を報告した。
あおいちゃんは、まさか本当になるとは思わなかったらしい。
かなりショックを受けて寂しがってくれた。
ごめんね。

和也先輩には、何も言えなかった。
まさか、あなたを追いかけていきます、とは言えるはずもなく……。

それに、和也先輩はほんっとうに忙しそうだった。
国体で予想以上の大活躍をした和也先輩には、やはり複数の大学からの引き合いがあったらしい。
結局、条件のよさで東京に決めた、ということを聞くと、ますます複雑な気持ちになり、自分から話しかけることもできなくなってしまった。
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