ヒロインになれない!
「あ、あの、チョコレートじゃだめですか?手土産ですけど。」
恭兄さまが、にっこり笑ってくださった。
「ありがとう。気を遣わせて、悪かったね。じゃ、遠慮なく、お持たせを使わせていただこうか。」
囲炉裏の部屋に戻ると、恭兄さまが鉄釜のお湯でお茶を点ててくださった。
ふわりといい香りがお部屋に広がる。
私もチョコを取り出して、朱塗りの末広型の小皿にいくつか並べた。
「どうぞ。」
恭兄さまの入れてくださったお抹茶は、とても丁寧な、あまり泡を立てないお茶だった。
「お手前、頂戴いたします。」
一応、決まり文句を言ってから、お茶碗を手に取り、正面を避けて、いただいた。
……甘い。
すごく香りも深くて濃い……のに、後味すっきり、さわやか。
「これ、すごい!本当に美味しい。備長炭効果?……ですか?」
つい敬語が飛んでしまったことに気づいて、慌てて付け足した。
すると、恭兄さまがとても柔らかく懐かしく微笑む。
「無理して敬語を使わなくていいんだよ。……って、昔も言ったよね。素直な感想をそのまま言ってくれたほうが、僕はうれしいよ。」
そういえば、そうだった。
「はい。心掛けます。あの、3月末からお世話になります。よろしくお願いします。」
恭兄さまは、眉をひそめた。
「心掛けて、それ?全然ダメ。」
ダメ、ですか。
「……京言葉バリバリでも、いいん?」
神戸でも、言葉遣いが少し違うから気にしてる部分あるけど、ましてやこの東京では……ねえ?
でも恭兄さまは、むしろうれしそうに頷いた。
「慣れた言葉でいいんだよ。ほら、うちの父もずっと京言葉だったろ?」
幼い頃に聞いた、ベタベタな京言葉を思い出して、私は頬が緩んだ。
「優しい柔らかい声してはりましたね。。。て、あ、そや!お葬式の時、挨拶もできなくて、ごめんなさい!まだお若いのに。ご愁傷様でした。私も、もう一度お会いしたかったです。」
「……ありがとう。父はめんどくさがって検診の類(たぐい)を受けてなくてね……不調を訴えたときには、癌が体中に転移してて手術もできなかった。あっという間だったよ。」
そう言ってから、悲しい顔をした私を慰めようとしたのだろう、恭兄さまは微笑もうとしてしてくださったが、そのまま表情がかたまり、瞳を潤ませた。
「恭兄さま……」
私は思わずにじり寄り、ハンカチを差し出した。
恭兄さまは、驚いて私を見た。
その瞳から、ほろほろと涙がこぼれ落ちる。
「どうして……」
ご自分が泣いてらっしゃることに対しての疑問なのだろうか。
本当に、このかたはずっと泣いてらっしゃらなかった?
お父上が亡くなられたというのに?
恭兄さまが、にっこり笑ってくださった。
「ありがとう。気を遣わせて、悪かったね。じゃ、遠慮なく、お持たせを使わせていただこうか。」
囲炉裏の部屋に戻ると、恭兄さまが鉄釜のお湯でお茶を点ててくださった。
ふわりといい香りがお部屋に広がる。
私もチョコを取り出して、朱塗りの末広型の小皿にいくつか並べた。
「どうぞ。」
恭兄さまの入れてくださったお抹茶は、とても丁寧な、あまり泡を立てないお茶だった。
「お手前、頂戴いたします。」
一応、決まり文句を言ってから、お茶碗を手に取り、正面を避けて、いただいた。
……甘い。
すごく香りも深くて濃い……のに、後味すっきり、さわやか。
「これ、すごい!本当に美味しい。備長炭効果?……ですか?」
つい敬語が飛んでしまったことに気づいて、慌てて付け足した。
すると、恭兄さまがとても柔らかく懐かしく微笑む。
「無理して敬語を使わなくていいんだよ。……って、昔も言ったよね。素直な感想をそのまま言ってくれたほうが、僕はうれしいよ。」
そういえば、そうだった。
「はい。心掛けます。あの、3月末からお世話になります。よろしくお願いします。」
恭兄さまは、眉をひそめた。
「心掛けて、それ?全然ダメ。」
ダメ、ですか。
「……京言葉バリバリでも、いいん?」
神戸でも、言葉遣いが少し違うから気にしてる部分あるけど、ましてやこの東京では……ねえ?
でも恭兄さまは、むしろうれしそうに頷いた。
「慣れた言葉でいいんだよ。ほら、うちの父もずっと京言葉だったろ?」
幼い頃に聞いた、ベタベタな京言葉を思い出して、私は頬が緩んだ。
「優しい柔らかい声してはりましたね。。。て、あ、そや!お葬式の時、挨拶もできなくて、ごめんなさい!まだお若いのに。ご愁傷様でした。私も、もう一度お会いしたかったです。」
「……ありがとう。父はめんどくさがって検診の類(たぐい)を受けてなくてね……不調を訴えたときには、癌が体中に転移してて手術もできなかった。あっという間だったよ。」
そう言ってから、悲しい顔をした私を慰めようとしたのだろう、恭兄さまは微笑もうとしてしてくださったが、そのまま表情がかたまり、瞳を潤ませた。
「恭兄さま……」
私は思わずにじり寄り、ハンカチを差し出した。
恭兄さまは、驚いて私を見た。
その瞳から、ほろほろと涙がこぼれ落ちる。
「どうして……」
ご自分が泣いてらっしゃることに対しての疑問なのだろうか。
本当に、このかたはずっと泣いてらっしゃらなかった?
お父上が亡くなられたというのに?