草食御曹司の恋
朝食は通勤途中の屋台で、白身魚が入った麺を食べる。あっさりとしたスープは出汁がしっかりと利いていて、思わず口から大きな溜息が漏れた。
博之も言っていた通り、三食外食が基本のこの国では、レストランやホーカーセンター(屋台が連なるフードコートのようなもの)が充実していて、長期出張で訪れている俺にとっては、飽きずに食事が出来て好都合だった。
周りのテーブルを見れば、出勤前の人々は、熱々の粥やトーストにコーヒー、野菜と卵が炒められた料理など、それぞれにバラエティに富んだ朝食を囲んでいる。
流石に三食外食が当たり前というだけあって、値段はかなり安い。こってりとした料理だけでなく、あっさりとしたメニューも充実している。
この国の外食という概念は、日本のそれとはまるで違うのだ。
朝食を食べ終えて、そのままクマザワの関連会社の現地オフィスに向かう。
高層ビルの谷間から降り注ぐ太陽。
この街のどこかで、同じようにこの光を浴びて1日をスタートさせているであろう彼女を想う。
どこにいるかも、どれほど遠くにいるかも、分からなかった数日前とは違う。
彼女は、確かにここに居る。
そう感じられるだけで、これほどまでに足取りが軽くなるなんて。
自分の現金さに呆れながら、オフィスビルのゲートをくぐった。