草食御曹司の恋
ホテルに滞在した二日間で外出したのは、たった一度。
それも数時間、オフィスに出向いて残った仕事を必要最小限しただけだった。
この二年間ほとんど消化してないからと、休暇を取ってくれた彼女に至っては、一度も部屋から出なかったらしい。
それだけ、素晴らしいホテルだったことは言うまでもなく。
世界随一と言われるバトラーサービスは素晴らしく、要望を言えばだいたいの物は揃うし、ルームサービスもレストランも驚きの充実ぶりだ。人気のティールームのアフタヌーンティーも部屋で堪能することが出来た。
「まだ起きないんですか?」
「そろそろ起きようか」
「朝食は街に出て食べませんか?」
「それもいいな」
「早くしないと」
「まだチェックアウトまで2時間もある」
「朝食じゃなくなっちゃいますよ」
クスクスと笑いながら身を起こしかけた彼女を、もう一度最後にベッドの中へと引きずり込む。
「れ、錬さん…」
戸惑いながらも、頬を赤らめて俺の名前を呼んだ彼女の額に、そっと口づけを落とす。正直自分でもどうかと思うくらい、彼女を求めてしまう。
絶食系と呼ばれた俺のこんな姿を誰も想像したことはないだろう。
「もう少しだけ」
「んっ…」
彼女と過ごす夢のような時間はあっと言う間に甘く弾けて。
現実がゆっくりと近づいてくる。
でも、それはきっと前よりは希望に満ちあふた日々だろう。
「またすぐに君のところに帰ってくるよ」
そっと彼女の耳元で囁いて、微笑んだ彼女を抱きしめる。
世界中のどこにいたって、帰るところはただ一つだ。