草食御曹司の恋



「誰も想像してなかっただろうな」
「ああ、全くだ」

どこまでも広がる抜けるような青い空の下、花嫁の登場を待つ男が二人。

「計画的か?」
「そんな訳ないだろ」
「だろうな」

博之は納得した顔でクスクスと笑った。

「まさか、絶食系と言われたお前が、できちゃった結婚とは」
「言い方に気を使えよ。最近は授かり婚と言うんだ。それに、結婚を決めたのは妊娠が発覚する前だから、正確にはそれも違う」
「人様から見たら、そんなの言い訳にしか聞こえないだろうよ」
「分かってるよ。だから…反省はしてる」

神妙に項垂れる俺の姿を見て、博之は今度は満足そうに笑った。

「今さらそんな情けない姿を見せるなよ。ほら、花嫁のお出ましだ」

広々としたガーデンに、眩しいほどに白く可憐なドレス姿で彼女が降り立つ。
妹の梓とホテルスタッフに付き添われて姿を現した美波は、俺の姿を見つけてドレスに負けないくらいの眩しさで微笑んだ。
博之がそっと肩を叩く。

「反省はしても、後悔はしてないんだろ?」

その問いに、俺は背筋を伸ばして答える。

「ああ、もちろん」

そのひと言を確認すると、博之は梓を連れて建物の中へと入っていく。おそらくは挙式までの時間を、ティールームで過ごすのだろう。


「眩しいな」
「はずかしい。ドレスやっぱり少し派手だった?」

ようやく俺の元へと辿り着いた美波に、感じた通りに感想を述べれば、心配そうな顔でドレスを見下ろす。
こういう時、彼女が喜ぶような直球の褒め言葉がスラスラと出てこないのは、自分でもつくづく残念だなと思う。

「いや、よく似合ってる。きれいだよ」
「ありがとう」

もう一度彼女をじっくりと眺めてみても、陳腐な言葉しか出てこない。それでも、彼女は嬉しそうに笑ってこちらを見上げた。

「錬さんも、ステキですよ」

白いフロックコートを羽織って立つ俺に、そっと彼女が囁く。
おそらくそんなに似合っていないだろうとは自覚しつつも、思わず頬が緩んだ。
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