草食御曹司の恋
「そろそろ、ご準備よろしいですか?」
いつの間にかスタンバイしていたカメラマンに呼ばれ、振り返る。
挙式前に二人きりで記念撮影をする予定だった。挙式後の撮影が定番だそうだが、彼女の体調を気遣って、休憩しつつ進められる挙式前に撮影することになったのだ。
美波の妊娠が分かったのは、プロポーズが成功してからちょうど三ヶ月後の事だった。
その間彼女に会えたのは、たった三度。
互いの休暇や出張を利用して、ほんの僅かな時間を過ごしただけだった。
電話口でも分かるくらい動揺していた美波からの思いもよらぬ報告に、一瞬だけ不安が頭を過ぎる。
もしかすると、産むのは嫌だと断られるかもしれない。
妊娠、出産となればどうしても女性に大きな負担を掛けることになる。彼女の今後の人生に多大な影響を及ぼす事になるからだ。
だが、そんな予想に反して、彼女はきっぱりと「産みたい」と言ってくれた。
しかも、引継ぎが済み次第、仕事を辞めて出産までには帰国するという。
『だって、あなたに毎日帰ってきてほしいから』
理由を問い質せば、彼女はなぜそんなことを聞くのか不思議だと言わんばかりの顔をして答える。
『この子を産んで落ち着いたら、また就職活動することにします』
あらぬ心配したことが恥ずかしくなるくらい力強い宣言に、思わず舌を巻く。元から芯がしっかりとした彼女だけど、俺が知らない三年間にますますたくましくなった。