【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「ただいま」
うちに帰ると既に仕事から帰っていたお母さんが待っていた。大概、私の方が帰りが遅い事が多い。この家は、私にとって居心地の良い場所ではないから。
「あらお帰りー。また蒼次郎君とこ?相変わらず仲良しね。あちらにご迷惑ばかりかけてもあれだし、たまにはうちに呼びなさいね」
「あはは、うん、仲良しだよ。うちにも今度呼ぶね」
私は母の明るい笑顔を欝陶しく思い、無理に笑顔を作り、その先の話が膨らまない事を願うばかり。
私の家庭は母一人子一人。こういう家庭はだいたい親子間も相思相愛が当たり前。
だから私も母親想いを演じているし、母もそうしてるのだと思う。傍から見れば、私達は何一つ問題の無い親子だろう。
母は再婚したい相手がいるのを私には黙っているが、私は知っている。どうやら向こうもバツイチ子持ちらしい。
私という存在が邪魔で、再婚できない現状なのだ。
偽りの笑顔の仮面を上手く被るのは私と同じ。嫌だな、こんな部分で血の繋がりを色濃く感じるなんて。
その本当の母の気持ちを空気で感じると、鬱陶しい笑顔に更に苛々する。親なんて所詮血の繋がった他人。この人も結局は自分の事が一番可愛いに違いない。