【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
相手の人と結婚したいなら、したいとはっきり言えばいいのに。


夜中、電話で何度「娘が独り立ちするまで待って」と言っているのを聞いたことか。


遅い時間ならバレないと思っているの?ねぇ知っている?知らないよね、私が夜に勉強してる事。だって、私の事なんか本当は興味無いもんね。


母と相手のその繰り返される会話を聞く度、苛々よりもずっとどす黒い感情が私を乗っ取ろうとしたことか。


私は結局、信じられるのは自分一人なんだと自覚せざる得なかった。


そんな大嫌いな母親との味気なく上辺だけの会話を繰り広げられる晩酌は、いつも私から生気を奪うよう。


「ごちそうさま。お腹いっぱい!よーし、勉強しなきゃ」


私は早々に食べ終わり、自分の洗い物を済ませ、団地である我が家の自分の部屋に閉じこもった。


母親と私を隔てる薄い壁と薄いドア。乱暴したらすぐにでも壊れそうだけど、この壊れそうな二つがあの人との生活を続ける私の最後の砦のようなもの。


早く高校を卒業したい。どうせ大学になんて行くつもりもない。


難しいと分かっていても就職して、母親の期待通りに独り立ちして、消えてやるつもり。


なんて孝行娘なのだろう。まぁ、母の為じゃなくて、本当はこの、脆い最後の砦から抜け出したいだけ。
< 12 / 211 >

この作品をシェア

pagetop