【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
車が団地の前に到着し、タクは外部専用の駐車場に止めた。


「じゃあ、また。……あの、クリスマスだったのに、すみませんでした」


私はタクに一言謝罪すると車を降りる。彼のクリスマスを私は独占した。もしかしたら、こんなに素敵な人なら恋人じゃなくても他の女性との約束もあったかも知れないのに。


しかし、タクはそのまま帰ることなく車から降りて来て、私の二の腕を掴んだ。


「お家の前までちゃんと送ります。君が帰り着くのを見届けきゃ気が済まない。僕が、気が済まない。構わないでしょう?」


「そんなに心配しなくても……」


子供じゃないんだから、と目で訴えると、タクはふっと目を細めた。


朝日に揺らめくタクは、何て綺麗な人なんだろうか。どれだけ私が貶めてもタクは汚れない。汚せない。


そして、私にぐっと顔を近付けると、私の額にこつ、と額を合わせた。


セックスの時とは違う、柔らかく円っこい、タクの本来の優しい視線しか目に入らない距離。
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