【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「ちょ……タク?」


「僕が小さい頃、不安なことがあると母がやってくれました。落ち着きませんか?」


タクは長い睫毛を伏せて瞼を閉じている。驚くくらい左右対象の顔が近距離にあって、心臓が、じんと痛む。


痛みの後は、まるで意思を持つ生物の様に動き出し、私の緊張を高めた。


昨日あんなに大胆な事をしておいて、変だ。あの行動よりも、セックスするよりも、こんな触れ合いの方がずっと緊張するなんて。


「よし。君の痛みは、僕が少しだけ受け取りましたよ」


こんなキザな事をごく自然にさらりとやってのけるタク。私は離れた額の温もりを失わないように、掌で額を抑えた。


「何なんですか、もう……」


「君は良く分かりません。大胆な事をしたかと思えば、こんな事で頬を赤らめるなんて」


照れて睨むように見上げると、タクは困ったように眉毛を下げて鼻を人差し指で触る。


何となく耳が赤いような気がしたのは、暖かかった車内から寒空の下に出て来たからなのだろうか。
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