【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
タクと二人で駐車場から車道に出て、団地へ向かうために左へ曲がった。


……でも、私は目の前から来るものに立ち止まった。そして、全てが凍り付く。


「かあ……さん」


目の前から歩いて来るのは、紛れも無く私の母親。私と同じ少々地味な顔立ちの女性。


だけど、その傍には母より少し若い風貌の男。その男に抱き抱えられた小学生くらいの男の子がいた。


まるで、幸せそうな家族みたい。母のその男とおそらく息子であろう子を見る目が、見たことないくらい穏やかで、私の心が、上手く作った偽りの仮面が、崩壊の音を立てた。


もう被れない。見て見ぬ振りして家族ごっこをしていた娘の仮面を。


だって、必死に取り繕って被っていた仮面はあの人には初めから必要無かったのだから。私が被らなくとも、私の要らない世界にあの人には家族がいた。


偽物でも、生んだ人だったから取り繕ってたのに。分かっていても娘だから或いは愛してもらえているかもなんて到底甘い夢物語でしかなかった。
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