【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
心が痛くて、辛くて、はけ口がない。そんな私に、追い撃ちをかけるように、更なる痛みが襲い掛かる。


母に叫んだ数秒後、乾いた音が、朝の団地の前に響いて、その音に驚いていると、後を追うように頬が熱くなった。


何が起きたか頭がついていかなくて、熱くて痛い右頬を抑え見上げると、そこには怒りと悲しみに満ちたタクの顔。


ああ……私、タクに頬を叩かれたんだ。状況に気付くと心のどこかにいる第三者の私が冷静にそう思っていて、気付いてすぐに、私にタクの怒鳴り声が降り注いだ。


「美姫!お母さんに謝りなさい!たった一人の家族に!君を産んだ家族に謝れ!」


私は、声を荒げるタクなんて今まで見たことなくて驚いて、怒る彼を黙って見ている事しか出来ない。


さっき君が僕の居場所になるなんて言ったくせに、何で母親の味方をしているのだろう。


タクは私を叩いた手を左の胸元に置き、その手の上に、さっきまで私を愛おしそうに撫でていたそのゴツゴツの骨張った手を重ね、ぎゅうと強く握り締めている。


叩いたのは自分のくせに、何で叩いたタクが痛そうな顔をしているの。何でタクが泣きそうになっているの。
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