【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
考えて考えて、そして、ようやくはっとする。


前、タクが言っていた。タクは唯一の家族だった母親を、自分の芸能界の仕事が原因で追い込み、そして亡くしたと。


だから誰よりも家族や仲間を大切にしているんだと。もう、誰も失いたく無いのだと、強く、強く。


そんなタクの目の前で、母親がいる事に恵まれているとも思わず、それどころかあんな事を言うなんて、どこまでも最低だ、私は。


だけど、私だって悩んでる。いつも他の所で幸せそうにしている母をずっと見て来たのに。独りぼっちなのをタクは知っているくせに。


気持ちはいっぱいいっぱいなのに、捌け口になる場所さえないのか。


「何よ……!どうせ私が生きているのが悪いんでしょう?我が儘で、汚くて、いい子ぶってる私なんか本当は皆どうでも良いくせに、中途半端に優しくしないでよ!」


自分でも訳が分からなくなってしまって、取り乱して、気付いた時にはその場を逃げ出して自分の部屋へ篭っていた。


ここが、この薄い壁とドアに隔てられた場所が、もう私の最後の砦。
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