【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
こんこん、と控えめにドアが叩かれる音で、私はぼんやりと目を開く。
いつの間にか、本当に自分でも気付かないうちに寝ていたらしい。真冬のフローリングで座ったまま寝ていたからか、足の感覚が冷え過ぎて無くなっている。
でも寝たおかげでだいぶ頭が冷静に戻って、興奮して声を荒げるような気分にはならない。
けれど、相手が誰であれ、やっぱり顔は見たくない。聞こえないふりをして無言でいると、向こう側から声が聞こえた。
「美姫、開けなくていい。だからお願い。話だけでも聞いてね」
それは母の声。母は私が無言なので、そのまま話を進める、私の声に良く似た、だけども私が出せない優しい音を吐く人。
「歌川さんと話したよ。美姫がずっと色んな事を一人で抱え込んで、心を置く場所さえ見失っているって。『貴方は母親失格です』って怒られた」
タク、あの後、私が寝ている間にそんな話をしていたんだ。あんなに私に怒っていたのに、やはりタクは優し過ぎる人。いつでも人の事ばかりを考える人なんだ。