【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「…分かるよ。何もかもを捨ててしまいたいくらいに人の事を好きになる気持ち。どうしようもなくその人の事しか考えられない気持ち」


私はドアに膝を抱えて寄り掛かり母に答えた。始めてこんな本音、伝える事が出来たね。


「やっぱり美姫……歌川さんの事好きなのね。蒼次郎君じゃなくて、歌川さんが」


「……うん」



ちょっとタクと話しただけで気付かれるなんて驚きだけれど、きっと私から同じ匂いがしたのだろう。


だから、この人は母親である前に女であってしまったと言ったけど。私自身そう言う風に見てたけど、やっぱり母親だ。私のことを分かってて、ちゃんと私を見ていてくれたんだ。


「私も同じ。最低な女だよ。蒼次郎がいるのにタクしか見えない。母である貴方との関係より、手に入らないあの人の心の事で頭がいっぱいなんだよ」


こんなに人を好きになる気持ちを知らなかったら、多分これからもずっと、私はこの人とこうやって話す事は無かっただろう。


ちゃんと向き合えば、一番の理解者に互いがなれる事を知らないまま、死ぬまでずっと。
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