【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「あの、タク、さん?特に用はなかったので会話が続きそうにないです。どうしたら良いと思いますか?」


私は次に何を言うか悩んだ末、こんなことを言ってしまう。こんな時に、一人で生きて行ける大人は何て言うのだろう。


そう考えていると、次に受話器越しに聞こえたのはタクさんあげた穏やかな笑い声。


《そうですか、は、ははは!君、案外行動派なんですね。意外です。……そういえば、君の名前を聞いてませんでしたね。聞いて、良いですよね》


タクさんは笑ったせいで切れ切れになりながら私に名前を尋ねる。そういえば、私は彼に名前すら名乗っていなかった。


「美姫です。篝、美姫(かがり、みき)」


名乗るのは、大嫌いなその名前。美しい姫だなんて私には一つも合わない、母親が付けたその名前。


いっその事闇子とでも付けてくれれば良かったのに。まぁそれは皮肉で、実際付けられたら一生恨むだろうけれど。


《そう、美姫さんですね。……ああ、それと、僕、"タクさん"って呼ばれるのあまり好きじゃないので、気軽にタクって呼んで下さい》


社会人はさん付けで呼ばれる事も多い。だからなのだろう、と申し出をあまり深く考えず、「はい」と了承した。
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