【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
私は心のように閉ざしたドアを開いた。このまま殻に閉じこもっていても、闇しか見えない。タクが置いて行った光を浴びる事は出来やしない。


目の前には、きっと沢山泣いたであろう、目の腫れぼったい母。


「ごめん……悪いのは私だ。私が娘として、母さんと向き合わなかった。文句の一つも言わないで、一人だと決めつけてた」


「違う!違うよ美姫!私が、裏でこそこそ男の人を愛して、本当に一番大切にしなきゃ行けない人に偽物の笑顔を振り撒いてたのが悪いの。……歌川さんに言われてはっとしたよ。『貴方の一番を今一度考えた方が良い。出来る筈だ。だって貴方は美姫を生んでくれた人なんだから』って」


母のその言葉に、乾き切っていた筈の涙が溢れる。


タクは、母に対して酷いことを言った私に呆れて見放したりはしなかった。それどころか、私と母ならちゃんと関係を修復出来ると信じて止まなかったのだ。


それはきっと、私も母もお互いがたった一人の家族で、お互いがちゃんと生きているから。想いを伝える手段が沢山あったから。


タクにはそれがもう二度と出来ない。どれだけ求めても、彼は伝える事が出来ないから、私達の背中を押してくれた。
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