【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
春の風のような、穏やかな喋り方をする人だと思った。同じクラスなのに、蒼次郎と話した事は無かったから、知らなかった。


人と上辺だけの付き合いしか出来ない私に初めて出来た本当の友達が、蒼次郎。


その日を境に、クラスでもちょくちょく話してくれるようになった。周りがどんな目で見ていようと、蒼次郎はお構いなしで、私もそれが心の支えだったよ。


図書室でも、案外家が近所だとかクラスメイトの誰がどうとか、他愛もないことで盛り上がったりして、いつしか私がターゲットから外れて周りに女友達が戻って来てからも、私にとって蒼次郎だけが居心地のいい友達だった。


初めて好きだと言われた時も、そう見ていなかっただけで、私も蒼次郎を好きになれると信じて付き合い始めたし、付き合い始めてもそのままの居心地の良い関係でいれると思った。本心からそう思っていたのに。


どうしてかいつからか私は、蒼次郎とまで上辺の付き合いになってしまっていた。


初めてキスした時に、男と女の距離が出来た。初めてセックスした時に、蒼次郎と自分の好きの差に気づいた。


触れれば触れる度に蒼次郎の隣は居心地は悪くなって、それでもいつかはまた居心地の良い場所になるかも、なんて思って仮面を被りながらも、私は蒼次郎の心から後ずさっていたのだろうか。
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