【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
私が泣き止んだ頃、蒼次郎は涙でぐしょぐしょになったシャツをダウンジャケットの中に引っ込めて、その穏やかな笑顔を再度私に向ける。
「ちゃんと幸せになれ。歌川さんに、ちゃんと全部話しちゃえ」
「……うん」
そんな蒼次郎の笑顔が、初めて眩しく見えて思わず目を細めた。
蒼次郎の言う幸せは、きっとタクに想いを告げてタクと共に歩む事だろう。
だけどね、蒼次郎、私、決めていることが一つあるんだ。
私は……タクとは共に歩まない。
大好きだから。いや、だから、じゃないかな。本当は大好きだけど、私はタクを手放すの。
彼を苦しめたくはない。だってタクにとっての光は今までもこれからも、穂純さんだって事には変わりないんだから。変える事なんて、出来ないんだから。
きっとこの感情にしがみついたままだったら、私は幸せになれない。
さよならの向こうに何があるかはまだわからないけど。だけど許してほしい。
きっと私、この恋にさよならを告げても当分タクのことを好きだと思う。
誰にも迷惑かけない。前を向いて歩くから、だからその最後の我が儘だけは、許して頂戴。