【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「美姫はものぐさだからどうせ自分の誕生日か0四つだろうと思ったけど当たりかよ。ったく、ちゃんとしたの考えて」


「あ、ごめん……って待って、え!」


ぶつくさと呟かれているその文句に誤っている途中で、ようやく蒼次郎が何をしようとしているか分かり、スマホを奪い取ろうとする。


けれど、立ち上がって離れた蒼次郎からはスマホは奪い取れず、それは蒼次郎の耳元に既にあてがわれていた。


「あ、歌川さん?俺……」


呆然と立ち尽くす私を尻目に、蒼次郎は私から距離を置き、通話先のタクと何か話している。


私と同じじゃない、蒼次郎だって。決めたら即行動、大胆なところ。


「美姫泣かしたら俺が許しませんからね」


そんな、私を想う彼の声が聞こえたかと思うと、通話はあっという間に終わったらしく、蒼次郎が私にスマホを押し付けた。


「あの海に呼びつけた。来るまで待ってるって言っちゃったから早く行けよ。逆に待たすのは格好付かない」


自分を傷付けた女の背中を押すなんて、どこまでも損する性格の蒼次郎。


「あのっ……ごめ、じゃなくて、ありがとう!」


だから、背中を押してくれた蒼次郎の為にも、ちゃんと私、踏ん切りつけて来る。


背を向ける最後の瞬間、蒼次郎がずっと我慢していたであろう涙を零すのが分かった。


だけど、振り返らない。お膳立てしてくれた蒼次郎の為にも、自分の為にも。
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