【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
大晦日でようやく仕事も休みになり、午前十一時と遅い起床時間。
よれたスウェット生地の灰色のトレーナーと、同じ素材のダルダルのズボンが視力の低い目にじんわりと映り込む。
欠伸をし、硬い天然パーマの髪の毛を掻くと、右側に酷い寝癖が出来ているのが感触で分かった。
僕を綺麗な物でも見るような彼女にはまだ知られていないだらしない一面。出来れば今後も見せたくない一面ではありますが。
彼女の瞳を思い出すと、瞼の中と胸の奥がじわじわと熱くなる。
「みき……美姫」
彼女の名を呼ぶと、その熱さが増すような気がした。そして、蘇る掌の痛み。
叩いてしまった。あの白くきめ細かな、吸い付くような白い肌を、この手が傷付けた。
美姫の気持を知りながら、僕は何て事をしのだろう。あんなの、家族を失った僕のエゴ。美姫があのように思うのも仕方の無い事情を知っていたのに。
「美姫は、泣いていないかな」
ひ弱な声が響く。僕は自分の軟弱な声が大嫌い。人の為にしか声を発せない自分も、優柔不断なところも腹が立って仕方が無い。
それでも僕を好きだと言ってくれる美姫は、今何をしているのだろう。
寒いところに心を押し込めたりしていないだろうか。
頭の大半を占めるのは、彼女の事ばかり。