【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「だって、私は大掃除の邪魔だから出てけって零さんに追い出されたんだもん。大喜の誘いに助けられたよー。年末ネカフェ難民になるところだった」


大喜に答えた穂純を同情する気にはならない。それはそうだ。零さんは自分のテリトリーは自分で守りたいタイプ。


嫁の穂純にですら触れさせないなんてかなり彼らしい考えだ。僕だって零さんのデスクに1ミリでも触れようものなら呪われそう。


「俺もそんなもんじゃのう。嫁がお節を作っとうのを手伝おうと思ったが、俺ん料理ん実力は壊滅的じゃけえ、追い出されたわ」


こちらも同情の余地無し。人の事を言えないが美琴の料理は本当に酷い。


今はこのお店も四人でキッチンとホールを回しているが、当時はそんな事もあってキッチンには社員がいたものだ。


「その点独り身は楽だよねぇ?俺もダイちゃんもタクちゃんも!……いや、タクちゃんは微妙なとこ?」


言われると寂しいものですが、事実。僕も含め寂しい独り身三人組は暇人に変わりないでしょうね、なんて答えはゴローの後付けの言葉で凍り付く。


「微妙とは、何が言いたいのですか?」


「いやいや、分かってるくせにー」


分かっていても肯定はしかねる。だって、ゴローの言っている『微妙』の理由の彼女には、彼がいるから。
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