【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
学校が終わると、蒼次郎に嘘をつき、会うのを断ったのに、やはり家にまっすぐ帰る気持ちにならなかった私は、用があるでもなくふらふらと街中を徘徊する。
本当はもう高校も終わりに近い私がこの時間に何をするでなくふらつく余裕は無いのに、私は結局何も考えてなんかいないのだ。
ふと目に留まった、高層ビルに設置された大画面のテレビにから流れるスーツのCM。
そこに映る、ミディアムショートの黒髪をかき上げる仕草を見せた艶やかな男性。
この人が、タクの働く会社の代表取締役で、世間的に知られている顔は元モデルで今は社長タレントの氏原零(うじはられい)だ。
タクはこの人の秘書らしく、毎日不定期な仕事をこなしているよう。
大きなモニターに向けていた目線を下げて、足元に向けた。鮮やかなモニターから次に見えたくたびれた焦げ茶色のローファーが、やけに淋しく映る。
私がひねくれているから、そんな風に思えるのかもしれない。
やっぱり、私の歩いている道とタクやあの社長タレントの氏原零のような華やかな人とは違うのだろう。