【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
母達を見送り、小さな教会に残された、私達。


「タク、ありがとう。本当に感謝しています」


木の座席で手を繋ぎ、ステンドグラスから差し込む光を見ながらタクに感謝の言葉を伝える。


するとタクは、困ったように眉毛を下げて、その整い過ぎた顔をくしゃくしゃにして、甘い顔を更に甘ったるく歪ませた。


「何言ってるんです。君のお母さんなら、僕の母みたいなものでしょう。こんな事くらい、当たり前じゃないですか」


当たり前に出来ないような気遣いを、さも当たり前のように出来てしまうのが、この歌川卓志という人。


そんな事、出会った時から知っていたよ。だけど、どれだけ一緒にいたってそれが凄い事だというのは、私の中では変わらない。


そっとタクの肩に頭を預けて目を閉じると、差し込む光を瞼の裏に微かに残し、後感じるのは、タクの太陽みたいな香りと、手や、触れているところから感じる温もりのみ。


ああ、まるで、世界に……。


「世界に、二人きりになったみたいだ。なのになんて、幸福なのでしょう。君が僕に触れている。それがこんなに当たり前で、なのに尊い奇跡のようです」


私が思った事をタクが言ったので、驚いて顔を上げる。


まるで世界に二人きりになったみたい。けれど幸福だ、と私も思っていたんだよ。
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