【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
背広の王子様は、甘く柔らかく、優しい音を吐く。その音は、一音一音がどうしようもなく愛おしく、私の耳を包み込む。


「もっと、君との時間を共有して、もっと、綺麗な部分も汚い部分も知って、互いがもっと進んだ時……君の残りの人生を、僕の進む道と合流させて頂ける仮予約、です」


タクらしい、回り回った言葉選びに私も微笑みが零れる。幸せが、愛しさが、溢れ出す。


でも、これまで闇の道を自ら選んで歩んだ私はまっすぐな人では無いから、だから、少しだけ、ひねた我が儘で貴方を困らせても良いかな?


「それは……出来ませんね」


私の答えにタクが固まり、悲しみの色に顔を染めて行く。


「最後まで聞いて下さい。合流して整った道を歩くんじゃなくて、決まった道じゃなくて、今からデコボコなところから二人で造りませんか?出来上がった時、残りの人生を一緒に歩きませんか?その方が、大変だけど楽しそう」


ずっと整ってない暗い道を通ってきたから、整った光指す道は私には眩し過ぎる。


だから導いてよ。一緒に造りながら歩みたいんだよ。それが私の我が儘。


そんな私の答えに、タクはムードなんてもう関係無いと言わんばかりの大きな笑い声をあげ始めた。
< 209 / 211 >

この作品をシェア

pagetop