【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「何で、笑うんですか?」


ムッとして唇を尖らせると、タクは笑い泣きしながら立ち上がり、子供みたいにくしゃくしゃになった笑顔で答えた。


「すみません……僕、すぐにじゃなくても結婚してという意味合いのプロポーズのつもりで言ったのに、君の方が男らしい事を言うものだから、は、はは!」


そんな事を言ってまた笑い始めたタクに、ムッとしていたのに、私も徐々におかしくなって来て声を上げて笑い出した。


思えば、タクと出会ってお互いにこうして腹の底から笑うのは初めてかも知れない。


私達は出会ったばかり。タクの言う通り、もっとお互いを知って、時間を共有して行くのも悪くない。


「それじゃあ造りましょう。共に歩む道を」


「はい。ゆっくり、じっくり」


だって私達には、限りない時間と限りない選択肢があるから。


模索して、たまに光の行き届かないところに足を踏み入れたら、互いに引っ張りあって明るいところに抜け出そう。


タクの指先が、私の頬を柔らかくタッチする。そして、私の肌を這い上がり、耳の上から指先で髪の毛を梳いたらそれは合図。


そっと唇を重ねてキスをして、甘くドロドロに溶け合う時。幻聴かな、幸せのベルが鳴り響いて、私達を祝福した。


幸福の中、大好きな香りがする。それは、タクの指先から香る、太陽の香り。
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