【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「タクこそ、こんなところでどうしたんですか?仕事中なんじゃないんですか?」


私が尋ねると、タクは穏やかだが苦い笑みを浮かべ、まるで映画のワンシーンのような肩をすくめる仕草をした。


「零さん……あ、うちの社長なんですが、そこのカフェで取材中でして。僕はマネージャーみたいな事もしてるんですけどね、取材時は大概暇なんでぼっとしてて。そしたら君の姿が見えたので抜け出しちゃいました」


タクは王子様みたいな整ったその顔をくしゃっと崩し笑う。頬の片側にだけ浮かぶ笑窪と、口から少し覗く白い八重歯がやけに可愛らしく見えた。


この人が笑うと、整い過ぎた非現実的なテイストが、一気に親しみやすい円みを帯びたものに彩られ、変わって行く。


「この仕事は忙しい時と暇な時の差が激しくて困ります。しかも、あの人は頗る人遣いが荒いもので」


文句を言いながらもなんだか楽しそうに見えるのは、気のせいなんかじゃない。きっと、タクがこの仕事が好きだからなんだろうな、なんて思えてしまう。
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