【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
そんな仕草のまま、楽しげにだけれどまだ直属の上司の悪口を言っているタク。


そんなタクの後ろ……つまり、私の正面から、長身のタクより更に背が高い人物が、音も立てずに近付いて来る。


この人はさっきのCMの男の人……タクの会社の社長、氏原零だ。


スーツ姿でも分かる、適度に筋肉の着いた硬そうな胸元から肩にかけてがやけに色っぽい。


顔立ちの全ては大きなサングラスによって隠れているが、全体的に彫りが深そうな印象。テレビや雑誌で見るその姿より、顔の大きさは小さいように感じる。


「おいタク。お前、人の仕事中に何抜け出してんだよ。随分楽しそうにべらべら喋って、何話してんだ?」


そして、タクの甘く柔らかい、優しい声に比べ、もっと地を這うように低く鋭い声の持ち主だと思う。


「おや?零さん、取材は終わったのですか?なんだ、せっかく息抜きしてたのになぁ。もう少し取材受けててくれても僕は構いませんけど」


タクはそんな無表情に近い氏原零にも怖じける事無く言葉を投げた。仕事の関係というより、まるで弟が兄へ皮肉を言うようにも感じると。


「とっくに終わったわっつうの。それよりお前……フーン、女子高生か。ほーお」


「零さん、何を誤解していらっしゃるかは表情で察しましたが違いますよ?彼女は友人です。篝美姫さんです」


ニヤニヤする氏原零にばっさりと言い切ったタク。その言葉に、何故だか胸の奥がもやりと動く。
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