【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ

ホロリ、と煙草のオレンジ色の火が砂の上に落ちて、一瞬にして灰色の世界に溶け込む。


ふぅ……と外の景色より白い煙を噴き出し、私は茜色に染まる空を見上げた。


「……さ、帰ろっかな」


短くなってしまったそれは、私を現実世界へと戻す時計のようなもの。


煙草の残りを砂の上に押しつぶし、私は公園から一歩踏み出した。それは、私のもやに満ちた
世界に戻る瞬間だと思ってた。


でも、その瞬間は違った。この一歩は、私の世界が壊れる瞬間。良くも悪くも、壊れた瞬間。


「あの、落とし物ですよ」


後方から、優しく甘く、空気に溶けるような低い声が、私を捕らえた。


私一人しかいないと思っていた空間に、別の人間の声。


驚きで、私は弾かれるように振り返った。


いや、驚きだけじゃなかったのかも知れない。本当は、その甘くて優しい、私の知らない世界に住んでいるような声の主を確かめたかっただけかも知れない。


何にも、誰にも湧かない筈の興味が湧いた瞬間を、捕らえたかったのかも知れない。
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