【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「って、すみません!何言ってんだろうな、僕……あまり長居したら風邪を引きますし、帰りましょうか。付き合って下さってありがとうございます」


タクは沈黙を無理に破ると、海面から足を出して、靴と靴下を持ち車に歩き出した。


私はそんな細長い背中をしばらく目で追い、そして自分も後を追った。


きっと、タクの心は穂純さんによって照らされてる。いつからかは分からないけれど昔から、今でもずっと。


私は太陽というより紫陽花みたいな女。あの眩し過ぎる笑顔に取って代わることなんか一生ない。


そんなことを、嫌というほど痛感させられた気がした。


私じゃタクを照らせない。穂純さんの場所に立てないし、タクに見つめてもらう事も手を伸ばして貰う事も出来ない。


心が泣き出しそうな程叫びたくなる。タクを想う事この気持ちを。だけどそうしない。少しでも傍にいたいから。ひっそりと咲く紫陽花のままでも構わないから、せめてそれだけは許してね、タク。
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