【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
契約
翌日。いつも通り制服に腕を通して、十八歳の子供の仮面を被り、けだるい足を動かし学校へ向かう。
私は学校に必ずと言っていいほど一番に来ている。別に学校が好きというわけではなく、母親と一緒にいたくないからだ。
しかし、いつもはガランと淋しい教室は、今日は少し違った様子。
「蒼次郎?珍しいね。おはよう。朝苦手だからいつもぎりぎりなのに」
私にとってはあまり会いたくない私の恋人、蒼次郎が、もう既に自分の席にいる。
いること自体珍しいが、今日はそれだけが異変ではなかった。
いつもは笑顔で挨拶を交わす蒼次郎、真顔で、黙って私を見ている。
その視線に、私は無意識に体が強張った。
やましい事を形としてした訳じゃない。けれど、私は心の中で彼を裏切っている。他に想う人がいる。
まるでそれを全て見透かすような漆黒の瞳から、目を反らしたいのに反らせない。
こんな顔をする蒼次郎を知らない。蒼次郎と同じ顔をした別の人といるみたいな感覚。