【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
……その人を一言で喩えるならば、そう、『王子様』という言葉がしっくり来る。
くせ毛な、全体的にウェーブのかかった固めの黒髪と、視線を下げると確認出来る銀フレームの眼鏡の奥は、丸いぱっちりした二重。まるで外国人のような鼻筋の通った小鼻。
背広を着た手足は細くすらりと伸び、そして異様に長い。
長い腕の先にある手は、全体的に甘い造りになっている彼には似つかわしい、男を強く匂わせる、ゴツゴツとした骨張ったもの。
本当に、生まれて初めてこんなに整った人を見た。蒼次郎だって恰好いいと言われる方の人間だけど、比較したらこの人に失礼なのではと思うくらい、この人は整っている。
「ほら、自分の出したゴミはちゃんと捨てなきゃダメでしょう?」
骨張った指先が摘んでいるのは、私がさっきまで吸っていた煙草。
「着眼点……おかしくないですか?注意する」
彼の発言があまりにも想像の右斜め上だったせいで対応に困り、私は思わず、背広を着た王子様に首を傾げてしまう。
すると、彼はその整い過ぎた顔をくしゃりと崩して、声と同じく甘く柔らかい優しげな顔をした。