【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「そうですね。勿論未成年が煙草なんて良くない。けれど僕も喫煙者なので注意出来る立場ではありませんから。煙草臭い大人に注意されても頭に来るだけじゃありませんか?何だこのおじさん、みたいな感じで」


そう言って「ふふ」と笑みを零す相手に、私の心臓はジクジクと心地の良い痛みに包まれた。


何……?心臓、痛い。まるで、四方八方から心臓が貫かれているみたい。


なのに嫌悪感を感じない痛みだなんて、そんなの常識的に有り得ない。けれど、現実にその有り得ない痛みに包まれている。


「とりあえず、はい。お返ししますね」


「あ、はい……」


私は骨張った指先に渡された吸い殻を有無を言わさず受け取らされ、それをどうだと考える暇さえも無く公園の古ぼけたごみ箱に捨てる。


「うん、いい子いい子」


捨てるのを確認した背広を羽織った『王子様』は骨張った大きな掌で私を、子供をあやすようにぽんぽん、と撫でた。


一瞬ふわり、と漂ったのは、煙草の香りなんかじゃなくて、太陽の香り。心から温まるような、懐かしい香り。


昔、母の干した布団にくるまった時の優しい記憶が身体を痺れさせる。
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