【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「初対面のおじさんにこんな事言われるのはうざったいかも知れませんが……一人くらい、本当の自分を知っている人がいた方が良い。きっと君は偽りの姿で人と関わっているのでしょう?例えば、一番近い親御さんなんかにまで」
背広を着た王子様は、胸ポケットから掌に収まるような小さな名刺を取り出した。
夕闇に包まれてぼやける目を懲らして、オフホワイトの紙にエンボス加工を施された高級な文字の羅列を追いかける。
『株式会社PURE EMPEROR
秘書第一課
代表取締役秘書担当歌川 卓志』
「歌川卓志(うたがわたくし)さん?」
「卓志……んー、タクでいいです。気が向いたら、いつでも連絡下さい。君にとっては怪しいかお節介なおじさんかもしれませんが、いつでもお話聞きますよ」
おじさんおじさんと言ってはいるけれど、私には若く見える。どう頑張って見積もっても二十代半ばから後半だろうに、十代を相手にすると、大人はこんな口振りになるのかな。
王子様……タクさんは、私にもう一度優しい笑顔を向けると、そのすらりと伸びた脚で、振り返ることなく公園から帰って行った。
まるでこの夕闇がもたらした一瞬の幻。いつももやに見せられる魔法の続きみたいだ。でも、それは違う。だってあの日からは太陽の香りがしたから。光は闇には負けないから。
背広を着た王子様は、胸ポケットから掌に収まるような小さな名刺を取り出した。
夕闇に包まれてぼやける目を懲らして、オフホワイトの紙にエンボス加工を施された高級な文字の羅列を追いかける。
『株式会社PURE EMPEROR
秘書第一課
代表取締役秘書担当歌川 卓志』
「歌川卓志(うたがわたくし)さん?」
「卓志……んー、タクでいいです。気が向いたら、いつでも連絡下さい。君にとっては怪しいかお節介なおじさんかもしれませんが、いつでもお話聞きますよ」
おじさんおじさんと言ってはいるけれど、私には若く見える。どう頑張って見積もっても二十代半ばから後半だろうに、十代を相手にすると、大人はこんな口振りになるのかな。
王子様……タクさんは、私にもう一度優しい笑顔を向けると、そのすらりと伸びた脚で、振り返ることなく公園から帰って行った。
まるでこの夕闇がもたらした一瞬の幻。いつももやに見せられる魔法の続きみたいだ。でも、それは違う。だってあの日からは太陽の香りがしたから。光は闇には負けないから。