【完】君の指先が触れる度、泣き出しそうな程心が叫ぶ
「なーんか、疲れたな、もう……」


ぼそりと呟いた自分の声が嫌にに響いた気がして、私はそそくさと退散する。


あの呟きは、バイトの疲労感も指していたり、蒼次郎との関係とか、母親の事とか、タクへの恋心とか、全部詰め込んだものだと分かっているからげんなりする。


「あっ!美姫ちゃーん!」


そんなテンションが最悪に低い私とは裏腹に、後ろから底抜けに明るい声が響いた。


後ろには、振り返ったことを後悔してしまうような人物。あまり会いたくない人。浴びたくない光。


「……穂純、さん?」


私の悩みの種の一つである穂純さんだ。けれどこの間と見た目がずいぶん違って、私は眉間に皺を寄せる。


この間はボーイッシュくらいにしか思わなかったのだが、今日の穂純さんは、どう見ても完璧女顔の男だ。


外へとパーマで綺麗に跳ねていた髪の毛はしっかりセットされており、この間は優しいカーブに化粧されていた眉は凛々しく山を描いた素のまま、いや、化粧自体してい無さそうなそんな顔。
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