【短編】さよならとフルーツタルト
・・・・
「送っていきます」
玄関先で、巧真が言った。
そんな無理しないで。そう言いたかった。
「いいよ、大丈夫」
「大丈夫って、暗いじゃないですか。仕事終わりで当たり前ですけど」
「この辺明るいし」
はぁ、と溜め息をつかれた。
「いいから」
ぐい、と腕を掴まれそのまま歩きだす。
見慣れた道。よく二人で歩いた。
あそこを曲がれば、駐車場と自販機だ。
「最近寒くなってきたね」
「そうっすね。鍋とか食べたい」
「え、それはさすがに早くない?十月だよ」
「鍋はいつでも美味いです」
「いやいやいや、夏はどうするの夏は」
「夏も食べますよ?」
本気か。私なら無理だ。
こうして歩いていると、別れたのが嘘みたいだ。
そんな他愛ない話をしていると、急に巧真の顔が強張った。
「先輩、結婚するんですよね」
チラリと薬指を見る。
「樫田専務と」
うん、と頷く。
樫田専務は社長の息子だ。
自らの秘書を息子の婚約者に取り立てたのだ。
秘書課の私が社長の愛人だという噂が立ったために、彼はあくまで息子の婚約者と話していたという体を作ろうとしているのだ。
何もないのに。
私に知らせずに公式発表されてしまい、親に挨拶を済まされ、完全に外堀を埋められた。
「お幸せになんて、言いませんから」
分かってるよ。
寂しいのは、同じなの。
もう戻れない、もう好きでいてはいけない。
もうやり直せない。
巧真に何があるか分からない。
「朝海…」
突然顎を上げられ、口づけられた。
涙が溢れる。
今だけの感情で、言葉にしちゃいけないのに。
私は言えないその言葉を、言わないで。
好きだなんて、愛してるなんて。
言わないで。
「送っていきます」
玄関先で、巧真が言った。
そんな無理しないで。そう言いたかった。
「いいよ、大丈夫」
「大丈夫って、暗いじゃないですか。仕事終わりで当たり前ですけど」
「この辺明るいし」
はぁ、と溜め息をつかれた。
「いいから」
ぐい、と腕を掴まれそのまま歩きだす。
見慣れた道。よく二人で歩いた。
あそこを曲がれば、駐車場と自販機だ。
「最近寒くなってきたね」
「そうっすね。鍋とか食べたい」
「え、それはさすがに早くない?十月だよ」
「鍋はいつでも美味いです」
「いやいやいや、夏はどうするの夏は」
「夏も食べますよ?」
本気か。私なら無理だ。
こうして歩いていると、別れたのが嘘みたいだ。
そんな他愛ない話をしていると、急に巧真の顔が強張った。
「先輩、結婚するんですよね」
チラリと薬指を見る。
「樫田専務と」
うん、と頷く。
樫田専務は社長の息子だ。
自らの秘書を息子の婚約者に取り立てたのだ。
秘書課の私が社長の愛人だという噂が立ったために、彼はあくまで息子の婚約者と話していたという体を作ろうとしているのだ。
何もないのに。
私に知らせずに公式発表されてしまい、親に挨拶を済まされ、完全に外堀を埋められた。
「お幸せになんて、言いませんから」
分かってるよ。
寂しいのは、同じなの。
もう戻れない、もう好きでいてはいけない。
もうやり直せない。
巧真に何があるか分からない。
「朝海…」
突然顎を上げられ、口づけられた。
涙が溢れる。
今だけの感情で、言葉にしちゃいけないのに。
私は言えないその言葉を、言わないで。
好きだなんて、愛してるなんて。
言わないで。