俺様当主の花嫁教育
現代日本のオフィス街のど真ん中で、いきなり拉致された。
もしかしてこの人は御影さんの知り合いでも何でもなく、あっさり誘拐されただけだったらどうしよう……と焦る私の前で、彼女は優雅な動作でガマグチの小さなバッグから携帯を取り出した。
「あの」と声をかける私を手で制して、彼女は誰かに電話をかけ始める。
逃げなきゃ!とは思っても、土曜日の早い時間帯の道路は意外に空いていて、この豪華すぎるリムジンは悠々と真ん中の車線を走っている。
ドアを開けてアクション映画張りに飛び出してみたところで、後続車に轢かれてあえなく……『チーン』という目に遭いそうで、私は仕方なくスゴスゴと退散しながら改めて彼女を観察した。
冷静によく見ると、ものすごい美人だ。
振袖ではない短い袖の着物。
だから既婚者?くらいの着物知識しかない私にも、艶やかで綺麗な紅色の着物が怖いくらい良く似合ってる。
ダウンスタイルの艶やかな長い黒髪。
透き通るような白い肌はきめ細かくて、黙っていれば私より年下かと思ったけれど。
「あ、もしもし。東和?」
彼女の口から『東和』という名前を聞いて、取り合えず少しだけ警戒を解く。
あの人のことなど全く知りもしないのに安心しようとする私は変だけど、この状況で顔のわかる人間の名前を聞けば、私の心情もいくらか仕方ないだろう。
「捕まえたわよ、志麻ちゃん。可愛い子じゃない」
この人が御影さんの何かは知らないけど、三十歳の彼に向かって上から口調。
つまりこう見えて三十歳を超えてるのがわかってしまう。
可愛い、という言葉についいい気になって、この状況でもいくらか警戒心を解くことが出来た。
もしかしてこの人は御影さんの知り合いでも何でもなく、あっさり誘拐されただけだったらどうしよう……と焦る私の前で、彼女は優雅な動作でガマグチの小さなバッグから携帯を取り出した。
「あの」と声をかける私を手で制して、彼女は誰かに電話をかけ始める。
逃げなきゃ!とは思っても、土曜日の早い時間帯の道路は意外に空いていて、この豪華すぎるリムジンは悠々と真ん中の車線を走っている。
ドアを開けてアクション映画張りに飛び出してみたところで、後続車に轢かれてあえなく……『チーン』という目に遭いそうで、私は仕方なくスゴスゴと退散しながら改めて彼女を観察した。
冷静によく見ると、ものすごい美人だ。
振袖ではない短い袖の着物。
だから既婚者?くらいの着物知識しかない私にも、艶やかで綺麗な紅色の着物が怖いくらい良く似合ってる。
ダウンスタイルの艶やかな長い黒髪。
透き通るような白い肌はきめ細かくて、黙っていれば私より年下かと思ったけれど。
「あ、もしもし。東和?」
彼女の口から『東和』という名前を聞いて、取り合えず少しだけ警戒を解く。
あの人のことなど全く知りもしないのに安心しようとする私は変だけど、この状況で顔のわかる人間の名前を聞けば、私の心情もいくらか仕方ないだろう。
「捕まえたわよ、志麻ちゃん。可愛い子じゃない」
この人が御影さんの何かは知らないけど、三十歳の彼に向かって上から口調。
つまりこう見えて三十歳を超えてるのがわかってしまう。
可愛い、という言葉についいい気になって、この状況でもいくらか警戒心を解くことが出来た。