俺様当主の花嫁教育
「え? ああ、それはいいけど。……ええ? あんた、本気?」


スッと描かれた美しい眉毛を軽くしかめる彼女の声が、わずかに険しくなった。
一体何を話しているんだろう?と少し不安が再燃しかける。


「わかったわよ。じゃ、また後でね」


思わず聞き耳を立てた瞬間、彼女が通話を終えた。
そして、微妙に身体を傾けかけていた私に、怪訝な視線を送ってくる。
私は慌てて姿勢を正した。


「あ、あのっ!」


やっと私が質問出来るターンが来た!と、勢い込んで声を出した私を、「志麻ちゃん」と非情なくらいあっさり遮った挙句……。


「あなた、東和の恨みでも買ってるの?」


どこか不審そうに探りながら、彼女はとても胡散臭そうに私を見遣った。


「は?」


私は、やっぱり訳がわからない。


キョトンとする私を、いいわ、と軽く手で制した後、彼女は割と乱暴にドスッとシートに背を預けた。
せっかく綺麗に作られた帯なのに大丈夫か、とこっちの方が心配になってくる。


そんな私の視線は気にせず、彼女は「山岸」と凜とした声を上げた。
はっ、と短くキビキビと返事をするのはリムジンの運転手さんだ。
あの人山岸さんって言うのか、とどうでもいい感想を抱く。
私が知りたいのは運転手さんじゃなくて、この着物の彼女の名前だ。
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