俺様当主の花嫁教育
「若旦那の言いつけよ。本家に行く前にうちに寄って」


そして、彼女が運転手さんに告げる言葉に、一瞬目が点になった。


「は……。ですが、茶会は十時からと認識しております。間に合いますか?」


返答する運転手さんの言葉にも、何やら馴染みのない言葉を見つけ出す。


なんなの? 若旦那とか本家とか茶会とか。
辺りをどう見回しても、現代日本としか思えない光景が広がっているのに、二人の会話に登場する単語がなんとも厳しくて古臭い気がして、まるで江戸時代にでもタイムスリップしたような気分になる。
そして、更に……。


「大寄せだから、問題ないでしょ。それより、志麻ちゃん」


やっと彼女が私に目を向けた。
そして、ポカンと口を開けた間抜け面の私にその眉をキュッと寄せた。


「東和の命令だから、とりあえず先にうちに行くわよ」

「う、うち?」

「そう。それほど遠くないけど……全く、東和のヤツ。それならそれで昨夜のうちに言えばいいのに。朝からバタバタさせんじゃないわよ。あ、着物の準備させとかないと」


黙ってれば本物の大和撫子なのに、彼女は残念なくらい口が悪い。
いや、そんなことより、まず説明してほしい。


本家とはなんぞ? それ以前に、私は御影さんとどういう関係かわからない彼女の『うち』に連れて行かれるの?


ところが、私が口を挟む隙も見せずに、彼女はまた電話を始めた。
やっぱり口調はどこか上からで、運転手さんへの命令と通ずるものがあった。
これから連れて行かれる彼女の家が相当立派だということは、それで想像出来てしまったけれど。


結局私はほとんど何も説明してもらえないまま、彼女の家に連れ込まれる羽目になったのだ。
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