俺様当主の花嫁教育
そして……今、私はこの事態にただ呆然としていた。


彼女の家に着いて、その大きくて歴史感漂う純和風邸宅に見惚れた私は、立派な床の間のある十畳ほどの和室に通された。
そこでも高そうな掛軸やら壺やらに目を奪われ、畳に所狭しと広げられた色とりどりのたくさんの着物に度肝を抜かれていた私は。


「ほら、志麻ちゃん。さっさと脱いで」


サラッと言いのけると同時に手を伸ばして来た彼女に、抵抗虚しく身ぐるみをひん剥かれ、全く状況がわからないまま薄い肌襦袢を着せられた。
そこから真剣な目を向ける彼女にされるがまま……。
何枚もの着物を肩から掛けては姿見に映し、そしてようやく彼女のお眼鏡に叶った薄紅色の可愛い柄の着物を袖に通した。


肌襦袢と言ったら、和服で下着だという知識くらいある。
心許ない格好から解放されてホッとする私に、彼女がテキパキと袷を整えながらクスッと笑った。


「和服は成人式以来ってとこ?」

「は、はい」


質問に素直に返事をする。
ごく普通の生活をするOLなら、いくら日本人でもそれが普通だと思っていいはずだ。
だからこそ、意味不明な状況でも、久しぶりの着物はちょっと嬉しい。
何より、とても綺麗な着物だ。
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