俺様当主の花嫁教育
「きゃああ~っ! あっはっは~!! やだ、もう! 志麻ちゃん、最高!!」


艶やかな着物美人の千歳さんが、私の目の前でお腹を抱えて、涙を流して大爆笑している。
その前で横座りして、出来る限り身を縮めて真っ赤な顔で俯く私。
私と千歳さんに向けた背からものすごい不機嫌オーラを漂わせているのは、ドスッと胡坐をかく御影さんだ。


「そろそろ終わる頃かしら~?って茶室の近くで待ってたんだけど。ちょうど錦織のおばさまが出て来たから話聞こうと思ったら、逆にすごい勢いで聞かれてびっくりしたわよ」


そう……。あのお茶会の正客を務めていたのは、御影家の分家筋の人で、御影さんと千歳さんの叔母に当たる人だったらしい。


そんな人の目の前で、不可抗力とは言え、私は御影さんを押し倒し(?)て、挙句、唇に唇をぶつけてしまったのだ。


『東和さん、どんなお見合い持ち込んでも全く本気で取り合う様子もなくて、跡取りとしての自覚が足りないわ、と思っていたけど、お作法も知らない庶民の女性がいたのね。あれじゃ当主にはご紹介出来ないだろうけど……だからと言って、閣僚夫人もいらっしゃるお茶席であんな大胆なことしでかすとは、なんて破廉恥な』


その叔母さんはそう言ってプリプリしながら、目を丸くする千歳さんに、最後の最後での私の大失態を尾ひれをたっぷりつけて話して聞かせたそうだ。


その上。


『血筋的に問題があるとは言え、あれだけの客人の前で接吻して既成事実を見せつけるとは。東和さんも実力行使に出たのかしら。責任と称して当主を納得させるには、格好の機会だったんでしょうし』
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