俺様当主の花嫁教育
「謝って許されるなら、世の中に警察はいらねえんだよ」

「そんないつの時代かわからない脅し文句で凄んでも仕方ないでしょ。それに、この件に関しては志麻ちゃんだって十分被害者よ。着物に慣れてないのに小一時間も正座し続けりゃ、そりゃあ足も痺れるわよ」


まだ目尻に涙を浮かべながらも、千歳さんは、ね!と私の肩をポンと叩いてくれる。


「ち、千歳さんっ……」


御影さんが口にするボロクソな言葉に本当にへこんでめり込んでいたから、今は千歳さんが女神に見えて、思わずじわっと涙を浮かべてしまう。


けれど。


「でも、あの様子じゃ、今頃おばさま、あちこちでそのまま吹聴してるでしょうねえ~。あの人、昔から東和のこと良く思ってないから。もちろん、『東和が志麻ちゃんを襲って無理矢理キスした』って」


追い打ちのような言葉に、がっくりと頭を垂れる。


「……マジ、勘弁してくれよ……」


御影さんの超不機嫌な溜め息交じりの声が耳に届いた。


さっきまでは、『ただの事故!』と胸を張って反論する気もあったけれど、話を聞くごとに実はものすごい大事なんだと実感してくる。


だって、分家とは言え二人と血縁のある叔母さんだけじゃなく、閣僚夫人もいたとか言った!?


ただでさえ、現代日本から異次元にタイムスリップしたような感覚に身を委ねている今。
事故で唇がぶつかっただけなのに、『既成事実』は大げさだと思っても、この世界ではそれが常識のように聞こえるから恐ろしい。
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