俺様当主の花嫁教育
なぜだか胸を張って言い切る千歳さんに、なんだか嫌な予感がした。


「志麻ちゃん。振られたばかりで男はいないのよね?」


頬を引き攣らせながら無意識に聞き返した私に、千歳さんはズズイと膝を前に進めて来る。
なんで今更そんなことを、念を押しながら確認されなきゃいけないの?


「まあ、姉の私でも『偉そうで最低な男』とは思うけど、幸いそれをカバーする財力はあるし。長い目で見れば、決して志麻ちゃんにも悪い話じゃないと思うのよ」

「おいこら。こき下ろしながら売り込むな。あの錦織のババアがなんて報告しようと、俺は認めないぞ」


ずっと不機嫌に背を向けていた御影さんが、聞き捨てならないと言うように、声を上げて反論した。


「あんたが認めなくても、どうせそうなるわよ。叔母さん、あんたの首取ったみたいに猛々しい顔してたから」


相変わらず、御影さんに対する千歳さんは容赦ない。


だけど……。
さっきから、話題の中心人物であるはずの私には、全く話が見えて来ない。
この見目麗しい姉弟が、何を言ってるのか、さっぱりわからない。


「あ、あの……?」


無意識に頬の筋肉を引き攣らせて、へらっと無様な笑みを浮かべながら、私は首を傾げた。


そんな私に、御影さんは嫌悪感丸出しで思いっきり眉をひそめた。
何かを言おうとして口を閉ざし、そして結局肩を上下させるほど勢いよく溜め息をついた。


「……志麻」


しかもなんで……そんな不機嫌なくせに、いきなり名前呼び!?
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