俺様当主の花嫁教育
一人嬉しそうな千歳さんに、御影さんは忌々しげにチッと舌打ちをした。


「勝手に決めるな。譲歩してやるだけだ。チャンスはやる。ただし、仕込んでも俺の目に適わなければ、嫁はもちろん俺の女にもしない」

「なっ、何を言ってるんですかっ!?」


すごくすごく嫌な予感がする。
さっきから、私の斜め上を上滑りする物騒な単語の数々。
嫁だの年貢の納め時だの……それって普通の意味で聞けば……。


「俺だってあのババアに首取られたまま、茶道界で外道扱いされるわけにはいかないんだよ。だから特訓してやる。それでお前が俺の嫁に相応しくないと判断されれば、俺がお前を振ろうが捨てようが、御影の名を穢さずに済む」

「ちょっ、何よそれ!?」


なんで私が御影さんに振られて捨てられなきゃいけないの!?
聞き捨てならない罵詈雑言に、さすがに私は声を上げて立ち上がった。
一瞬、私の目の前で御影さんが怯む。
さっきの悪夢が蘇ったんだろうけど、おあいにく様。
横座りしていたおかげで、足は痺れてはいない。


「まあまあ、志麻ちゃん」


千歳さんが着物の袖で口元を隠しながら、クスクス笑った。
いろいろめちゃくちゃな人だけど、その所作はやっぱり優雅で品がある。
一瞬素で見惚れて、私は逆らえないまま、再びその場に座り込んだ。
そんな私に、千歳さんがそっと耳打ちする。


「元々短期決戦で大和撫子にしてもらうのは、約束だったんでしょう? だったら東和がその気になった今、思う存分利用すればいいのよ」

「え……?」
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