俺様当主の花嫁教育
私が無知だったのかもしれない。
あれから一週間も経たずして、千歳さんから聞いた話は全く大袈裟じゃなかったということを、私は初めて知った。


『御影』は日本の茶道界の頂点に君臨する由緒ある立派なお家元。
この間のお茶会にも閣僚夫人が列席していたというだけあり、何かの行事の際には皇室・宮家にも召される格式高い名家なのだ。


昨今の日本文化ブームの影響もあり、後継者となる御影さんは海外でも茶道家として名を轟かせている。
年に何回かはアメリカやヨーロッパに出向いて、日本文化の普及に一役買ったり……と、とにかくいろんな意味で有名人だったのだ。


そんな日本文化を背負う有名人が、オフィスの前で凛々しく私を待っている。


「あ、今日もいる~! 光源氏の君」


私の背後で、そんな黄色い囁き声が聞こえた。


「ほんとだ。今日も超色っぽい~!! ね、誰を待ってるんだろうね」


呼応する別の声に、私はただ身を縮ませる。


みんな、知らないから騒げるんだ。
声にならない反論をしながら、私は胸の前でギュッと手を握りしめた。


平日の月曜日から木曜日……私はここから有無を言わさずに拉致られた。
そして連れて行かれる先は、御影さんのお屋敷。
そこで夜な夜な『特訓』を受け続けたのだ。
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