俺様当主の花嫁教育
これまでと寸分違わず拉致られて、私はもう見慣れてしまった御影さんのお屋敷の広間にちょこんと座っていた。


閉じられた障子戸の向こうは贅沢で豪華な庭園が広がっている。
庭園に設置されている照明と、戸の上方のガラス部分から射し込む月明かりに照らされて、広間はオレンジ色の明かりで彩られている。
煌々とした蛍光灯よりもずっと趣があって、肌で感じる空気も柔らかい。


ぼんやりと目を閉じると、藺草のいい香りを強く感じる。
御影さんが出て行った廊下側の襖の方からは、遠くから人の話し声が途切れ途切れに聞こえてくる。
このお屋敷は広さと比例して人が多いし、この時間ならまだ稽古に訪れている内弟子さんも多数いる。
きっとその人たちがどこかで談笑しているのだろう。


リムジンの中では帰してくれとごね続けたけど、ここで正座している今は、さすがにもう腹も括った。


どのくらい待っただろう？と思いながら、私はゆっくり目を開けた。
いや、多少待ち時間がいつもより長くても、どうせ今夜もいつもと変わらない。
そのうち御影さんの内弟子さんとかが現れて、私は身ぐるみ剥がれて着物姿になる。
それで今日は……いったいなんのお稽古だ？
割と思いつかない自分に気づいて、思う以上に日本文化っていろいろある、なんてしみじみしてしまう。


特訓、と言っても、昨日まではずっと御影さん自身が私に何か教えてくれたわけじゃない。


日舞の時は千歳さんだったし、他の時は、私は知らないけれど、きっとその道のプロばかり。
さあ、いったい今日は何が来る？
私が知る日本文化は割ともう出尽くしたと思う……けど。
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