俺様当主の花嫁教育
「ほら、手、どけろ」


それでも御影さんは、私の反応を全部見透かしている。
クスクス笑いながら私の手に手をかけ、割と柔らかい力で解くと、両腕を交差させながらサッと袷を直してくれた。
そして再び私の前に膝立ちになって、腰紐を結び直す。


ドキドキと大暴れする胸を押さえるように両手をギュッと置いた私は、御影さんを斜めの角度で見下ろしながら、悔しいけれどその美しさに見惚れていた。


こんな綺麗な男の人に着物を着せてもらう日が来るなんて、夢にも思ったことはない。
仄暗い暖色の明かりにうっすらと照らされる部屋のせいか、あまりに非日常的な空気が漂っている。


「志麻、袖通せ」


だから私は逆らうことも忘れて、広げられた薄紫の振袖に言われるがまま、腕を通した。


「あ、あの……」


この角度から見下ろす御影さんが一番色っぽいと思う。
黙ったままで過ごしてたら、ドキドキしているのを見透かされそうな気がして、私は無意識に声をかけていた。


御影さんは、伏せた目をわずかに上げるという最低限の動作だけで、私に反応してくれる。
だけど困った。ちょうどいい話題がない。
そのまま声を消え入らせると、御影さんが私の好きな角度で目を伏せて、傍から腰紐を一本取り上げた。


「なんだよ。用がないなら話しかけるな。気が散る」


そう言いながら、おはしょりを整えながら私の身体に紐を巻き付ける。
ギュッと強く引っ張られて、一瞬よろけながらもなんとか足を踏ん張る。
< 54 / 113 >

この作品をシェア

pagetop