俺様当主の花嫁教育
そして結局、私は御影さんの伏し目と手の動きに目を奪われてしまう。


この間のお茶会の時も思ったけど、この人は『和』の世界に身を委ねている時、普段とのギャップがありすぎる。
お茶を点てている時は、どこかはんなりした空気を漂わせながら、とても凛とした瞳を浮かべる。
そして今私に着付けを施す手は繊細で、ノーブルブラックの瞳は真剣そのものだ。


ほんの冗談を口にするだけでも怒られそうだ。
いや……反応もしてくれないかもしれない。
私ばかりが頑張って何か話そうとするのは、どう考えてもとても滑稽だ。
そう思ったから、御影さんから微妙に視線をずらしてやり過ごそうとしたのに。


「……私、お茶会の時、御影さんにとって、本当は『七五三』だった?」


意志に反した胸の鼓動が、知りたいと思う気持ちに拍車をかける。
袷を綺麗に整え終えたタイミングの御影さんが、フッと私に上目遣いの視線を流して来た。


「は?」


眉間に皺を寄せて、呆れたように聞き返される。
明らかに冷たい返事を繰り出されることを察して、私は慌ててブンブンと首を横に振った。


「な、なんでもないです!!」

「言ったろ。それほど悪くないって」

「……え?」


想像が最悪だったから、そんな微妙な返事でも気持ちがつい浮上した。
帯を手に取った御影さんが、怪訝そうに首を傾げる。
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