俺様当主の花嫁教育
「最初はどうなるかと思ったが、絶望的なほど筋が悪いわけじゃない。これまでの稽古を覗いた限りだけどな」
「……見てたの?」
まさか、と思いながら、目を丸くしてそう訊ねてしまう。
その質問の方が、御影さんの機嫌を損ねたようだ。
「俺が仕込むって言った。口約束でも、二度言ったからには責任がある。まあ……少なくとも、やる気は認める」
と言うことは……。
今夜、御影さんが直々に私に茶道のお稽古をしてくれるのは、第一段階クリアってことなんだろうか。
そう思ったら、私の心は浮足立ってほんのちょっと弾んでしまう。
だけどそんな淡く浮かれた気持ちは、すぐにピシャッと跳ね付けられて、地面に叩きつけられる。
「とは言え、自惚れるな。俺だって初心者に対しては最初は相当甘い評価をする。当然だろ。高い月謝落としてくれる上客は乗せるに限る」
「……」
思わずガックリとこうべを垂れる。
そんな私に御影さんは小さく笑うと「ほら、顔上げろ」と一言言って、帯の半分を私の肩にかけてから身体に巻き付けていく。
最後の帯締め。
一瞬前にあんな最低な軽口を叩いた人とは同一人物だと思えないくらい、すごく真剣な表情だ。
御影さんにお約束のように見惚れながら、私はのみ込んだ質問を脳裏に描いてグルグルと考えていた。
『最初は』って。
私は高い月謝を落として教室や御影家の利益になる『生徒』じゃないのに。
それどころか、御影さんにとって、育てずに貶めてさっさと縁を切りたい女でしかないだろう。
なのに……。
私のやる気と負けん気を、この人は普通の顔をしてサラッと煽るんだ。
「……見てたの?」
まさか、と思いながら、目を丸くしてそう訊ねてしまう。
その質問の方が、御影さんの機嫌を損ねたようだ。
「俺が仕込むって言った。口約束でも、二度言ったからには責任がある。まあ……少なくとも、やる気は認める」
と言うことは……。
今夜、御影さんが直々に私に茶道のお稽古をしてくれるのは、第一段階クリアってことなんだろうか。
そう思ったら、私の心は浮足立ってほんのちょっと弾んでしまう。
だけどそんな淡く浮かれた気持ちは、すぐにピシャッと跳ね付けられて、地面に叩きつけられる。
「とは言え、自惚れるな。俺だって初心者に対しては最初は相当甘い評価をする。当然だろ。高い月謝落としてくれる上客は乗せるに限る」
「……」
思わずガックリとこうべを垂れる。
そんな私に御影さんは小さく笑うと「ほら、顔上げろ」と一言言って、帯の半分を私の肩にかけてから身体に巻き付けていく。
最後の帯締め。
一瞬前にあんな最低な軽口を叩いた人とは同一人物だと思えないくらい、すごく真剣な表情だ。
御影さんにお約束のように見惚れながら、私はのみ込んだ質問を脳裏に描いてグルグルと考えていた。
『最初は』って。
私は高い月謝を落として教室や御影家の利益になる『生徒』じゃないのに。
それどころか、御影さんにとって、育てずに貶めてさっさと縁を切りたい女でしかないだろう。
なのに……。
私のやる気と負けん気を、この人は普通の顔をしてサラッと煽るんだ。