俺様当主の花嫁教育
『思う存分ジロジロ見ていいぞ』
ニヤッと不敵な笑みを浮かべた御影さんに頬を膨らませながらも、私は大人しく御影さんの茶室に席入りした。
この間の大寄せのお茶会とは全然雰囲気も趣も違う。
あの時はここより一回りは広い茶室で、お客さんも大勢いた。
けれど今夜は私一人だ。
「お薄を差し上げます」
そう言ってお点前を開始した御影さんを、私はお許し通りジロジロと、いや……ジッと注視する。
だって、お茶を点てる御影さんは言葉に出来ないくらい凛々しくて美しくて、不本意だけど目が離せないのだ。
彼が茶釜に向けて杓を手にした瞬間、空気が変わる。
それまでは閉じた襖の向こうと寸分変わらなかったのに、ズンと重みを増して、静謐で厳かな何かを纏う。
日本の文化なんて、『和』の心なんて、何もわからない私でも感じ取れるほど、幾重にも重なって九十九折りになる『何か』――。
リズミカルに茶筅が茶器を擦る音が響く。
私は音を感じたくて、無意識に瞳を閉じた。
視覚を閉ざしてみると、聴覚と嗅覚、そして触覚をくすぐるものがこの場の全てになる。
そうやって御影さんが生み出す『和』に溶け込んで行くような気がした。
「ちゃんと見てろって言ったろ」
皮肉交じりに繰り出される低い声にも、私の心は落ち着いている。
この人を独占してるんだと思ったら、ほんと、悔しいけれど畏れ多い。
そっと目を開けると、御影さんがたった今点てたお茶の碗を、袂を押さえながらスッと差し出した。
ニヤッと不敵な笑みを浮かべた御影さんに頬を膨らませながらも、私は大人しく御影さんの茶室に席入りした。
この間の大寄せのお茶会とは全然雰囲気も趣も違う。
あの時はここより一回りは広い茶室で、お客さんも大勢いた。
けれど今夜は私一人だ。
「お薄を差し上げます」
そう言ってお点前を開始した御影さんを、私はお許し通りジロジロと、いや……ジッと注視する。
だって、お茶を点てる御影さんは言葉に出来ないくらい凛々しくて美しくて、不本意だけど目が離せないのだ。
彼が茶釜に向けて杓を手にした瞬間、空気が変わる。
それまでは閉じた襖の向こうと寸分変わらなかったのに、ズンと重みを増して、静謐で厳かな何かを纏う。
日本の文化なんて、『和』の心なんて、何もわからない私でも感じ取れるほど、幾重にも重なって九十九折りになる『何か』――。
リズミカルに茶筅が茶器を擦る音が響く。
私は音を感じたくて、無意識に瞳を閉じた。
視覚を閉ざしてみると、聴覚と嗅覚、そして触覚をくすぐるものがこの場の全てになる。
そうやって御影さんが生み出す『和』に溶け込んで行くような気がした。
「ちゃんと見てろって言ったろ」
皮肉交じりに繰り出される低い声にも、私の心は落ち着いている。
この人を独占してるんだと思ったら、ほんと、悔しいけれど畏れ多い。
そっと目を開けると、御影さんがたった今点てたお茶の碗を、袂を押さえながらスッと差し出した。